日本百名駅 緊急レポート のと鉄道が危ない!

「赤字のため、鉄道からバスへの転換も止むを得ない」―2月28日、石川県議会で谷本正憲知事が初めて「のと鉄道」七尾線穴水―輪島間(20.4km)の廃止について言及した。第3セクターである同鉄道の最高責任者である県知事の発表は、事実上の廃止決定を意味する。沿線住民からは落胆の声がもれるが、覆すほどの輸送の伸びも期待できなければ、のと鉄道の運賃を県から補助を受けている住民は返す言葉が見当たらないというのが正しい。旧国鉄線の転換路線で第3セクターにより運営されているものは38社あるが、うち30社が赤字を抱えている厳しい実態。「一度敷いたらはがせない」線路を棄てる動きが、今後進まないことを願うばかりだ。

●赤字係数270の実態

 のと鉄道は、1988年3月25日にJR能登線(穴水―蛸島、61.0km)を引き継いで開業した。1991年9月1日にはJR七尾線の七尾―輪島間(53.5km)の第2種免許を取得、JR西日本が線路を保有し列車はのと鉄道が運行する方式を始めた。能登線、七尾線ともに歴史は古く、能登線は1964年に、七尾線は1915年に開業した。
 すでに沿線住民には馴染みの深い路線である、ということである。
 しかし、過疎化や少子化による沿線人口の減少、自動車の普及が鉄道経営を圧迫し始めた。JR金沢駅からの直通急行「能登路」号が1往復と普通列車が11往復運転されているが、通学時間帯を除きほとんどガラガラというのが現実だ。
 のと鉄道によると、穴水―輪島間の輸送実績は1日あたり451人(上下線合計、1999年1月調査)で、同鉄道全体の5.2%に過ぎない。一方で100円の収入を得るのに必要な費用は270円(1998年実績)で、年間1〜2億円の赤字が発生している。

●空港・高速道・鉄道の「共存」めざす

 能登半島の交通をめぐっては、県側の思惑も見え隠れする。有識者らで構成された「能登地域総合交通構想懇話会」(交通懇)では、2004年開港を目指す能登空港を核に、能越自動車道など高速交通ネットワーク整備が急務といえ、そのなかで赤字ローカル線が共存するのは難しい、との結論を出した。
 もっとも、早急に整理が必要とされたのは特に利用が少ない穴水―輪島間に限っており、金沢〜能登半島の幹線である七尾―穴水―蛸島の廃止は言及していない。
 昨年9月2日、のと鉄道が中部運輸局に初の運賃値上げを申請した際に同社は「厳しい状況は続くことが予想されるが、現時点では廃止は考えていない」と述べている。しかし、その段階ですでに赤字を補てんする運営助成基金がマイナスになる事態に直面していた。値上げによってその危機は回避されたが、現在の赤字幅では2001年度にも基金が底を尽くとみられている。税収不足による財政難の県や沿線自治体としても、これ以上の助成をする余裕は残されていない。リミットに合わせて、穴水―輪島を手放すしか手がないのだ。
 つまり、同区間の廃止によって、能登半島の「空港」「高速道路」「鉄道」の3本柱を共存させようというのが、県の希望なのである。
 谷本知事も「能登空港により(能登半島の)交通体系の在り方は大きな転換期を迎える」として、空港への期待を込めている。
 ところが、全国の地方空港はローカル鉄道以上に厳しい経営を強いられている現状も忘れてはならない。例えば大館能代空港(秋田県)、佐賀空港など…。鉄道以上に資本が必要で整備が大変な空港が利用者の伸び悩みで苦境を呈している。また、今年からの国内線航空運賃自由化にともなって、激しい価格競争の裏側で進むと予想されている地方路線の縮小のあおりを、能登空港は開港当初から受けることになる。さらには、能登空港は小松空港という地域の基幹空港に隣接しているという意味でもハンディを背負っている。

●4月に届け出、来春廃止へ

 穴水―輪島の廃止について、輪島市の梶文明市長は「のと鉄道の経営努力が足らない。しかも空港の開港はまだ先の現状や、(昨年の)料金改定の結果を見極めずに廃止を判断するのは拙速だ」と強く存続を主張している。穴水町も同様の立場をとっており、廃止後に予定されるバス転換に至るまで理解を得るには時間がかかりそうだ。
 これまでは沿線自治体が同意をしない限り廃止をすることはできなかった。ところが、今年3月に施行された改正鉄道事業法により同意が必要なくなった。基本的に鉄道事業者が運輸省に廃止(退出)を届けるだけで可能になる。
 のと鉄道と県は、4月にも届出を行う見通しだ。その時点で1年後の廃止が決まる。 届け出後は、転換バスのダイヤ編成や停留所の位置を煮詰めることになる。運行会社は北陸鉄道が分社化した能登中央バスが引き継ぐ見通しだが、同社は「やれ、と言われれば鉄道に負けないくらいきめ細やかなサービスに努めたい」という。
 第3セクター鉄道としては千葉急行(千葉県)に次いで、旧国鉄転換路線としては弘南鉄道黒石線(青森県)に次いで、それぞれ2例目。転換3セク線としては全国初の廃止となる。


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