日本三大松原――羽衣伝説で知られる「三保の松原」(静岡県)、日本三景の一つで股のぞきで有名な「天橋立」(京都府)、そして「虹の松原」。鉄道で旅している者にとって、「三保」は恐るべき清水港線があったし、「天橋立」にもKKR(北近畿タンゴ鉄道)があり馴染みが深いが、3つ目の「虹の松原」は駅はあるけど目立たない。それでもなお“三大”と付けられれば行くしかない。
ガイドブックを見ると、きっと載っている「虹の松原」。地形図にも特別名勝の記号が付いている。国民宿舎「松原ホテル」なんていうのもある。これは立派な観光地ではないか。しかし、その割りには有名ではないのは、ナゼか? 不思議で仕方がない。
まず、佐賀から唐津線で北上した。終点の一つ手前の唐津で筑肥線に乗り換え1駅で、虹ノ松原駅である。
●駅は、全てを物語る。
降り立って、確信した。
「ここは、観光地ではな〜い!」
この駅舎…いわゆる無人駅である。観光地の駅には必ずある「歓迎」「いらっしゃい」「ようこそ」の文字などない。駅舎はマアマアきれいであるが、貨車を改造したのよりはマシという感じで、特筆すべきことはない。駅を一歩出ると、もう松原の中に道がのびている。感動のあまり、涙が出そうになった。完璧である。駅名に「松原」と付けば、松原があればいいのである。この駅は、正真正銘の松原駅である。
誉めるとキリがないのでこの辺で止めておくが、少なくとも観光客が押しかける駅ではなさそうだし、押しかける魅力は感じられない。それでも「日本三大松原」だ。「三大××」好きな誰かが松原バージョンを企画したとき、三保、天橋立までは思いついたが、あと一つが出てこなかったんじゃないか。適当に探してたら,唐津に虹の松原を見つけたんだ、きっと。
誉めるのを止めた途端にけなしてしまったが、とりあえず松原を散策することにした。
細い道をしばらく進むと、国道202号線にぶつかる。2車線国道で、狭いのに車がけっこう通る。排気ガスがかなり堪える。松原の中に遊歩道のようなものは整備されていないので車道を歩くしかないのだ。後から調べたことだが、国道の車の排気ガスでマツクイムシが発生し、問題となっているそうだ。
途中、松原の中に進む細い道があり、そこに入った。すると、海岸に出た!
当たり前である。松原は主に砂防・防風林として人為的に植林された松によって構成されているのである。したがって、三保でも天橋立でも、海岸付近に発達しているのだ。虹の松原の場合、江戸時代に後背湿地を開発する目的で自然林に植林したのだそうである。
●海岸に出てみて…
砂浜に出て、驚いた。
弓形の海岸が、ずーっと、かなたまで続いている。ガイド本の地図で確認すると、約200m。…200m? あれ、この地図、縮尺が間違ってるじゃないか! おいおい頼むよ、JTB…。
全長4.5km、幅400〜600m、100万本の黒松が広がる虹の松原。何と、三保(全長約4km)や天橋立(同3600m)よりも大きい、日本最大の松原だったのだ。「日本三大松原」はいい加減に冠したわけではないのである。いやいや、恐れ入った、前言撤回、けなしてすいませんでした。
延々と続く松原とその砂浜。砂浜はゴミの山である――といっても、不法投棄ではなくて、海流によって運ばれた浮遊物が打ち上げられたのだ。よく見ればハングル文字のジュース缶や洗剤ボトルがある。そうだ、海の向こうは韓国である。ガラスが波に削られて、芸術作品のようになったものもある。拾う気はしないけど。何かのテレビ番組で「海岸にイチジク浣腸がいっぱいある」と言っていたのを思い出し探してみると、確かにイチジク浣腸がある。…なんでだろう。
●歩いちゃった!
結局、虹の松原を歩き通し、唐津市街地まで来た。本当は歩くつもりではなかった。先にも言ったように、ガイド本の縮尺が間違っていたせいである(まあ、間違い過ぎですね。その前に気付けという…)。ヘトヘトになったが、大変な穴場を発見した喜びに満ちていた。
観光地ではない穴場を探すには、まずは駅で降りて歩くことが一番。この体験で得た教訓である。
一つ心残りなことがある。この旅の過程で、唐津線の唐津―西唐津を乗れなかった。嗚呼。
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