
花火は観客席の対岸から打ち上げられる=1998年8月 |
大曲は、人口3万の静かな街。
その街も8月第4土曜日は、近県からなんと60万人が押し寄せ、熱気でむんむんする。
大曲が日本に、そして世界に誇る「大曲の花火」――花火の街として、その名を馳せている。
花火に詳しくない限り、大曲と聞いてもピンとこないであろう。だが、ここで開催される「大曲全国花火競技大会」は、土浦の花火競技大会と並ぶ二大大会として、花火師たちの憧れの場となっている。ふつうの花火大会と何が違うかといえば、「花火大会」ではなく「花火“競技”大会」である点だ。約30ほどの花火師たちが、この日のために創り上げた花火を披露する全国最大規模の競技会で、入賞すれば花火業界のトップにいると同然である。審査員は花火の専門家のほか、科学技術庁や通産省の役人がメンバーとなっており、最高で通産大臣賞(経済産業大臣賞)が贈呈される。この賞が贈られるのは大曲と土浦の2つだけである。
したがって、大曲の花火はハイレベルで、ここだけで見られる技術もある。例えば大菊と呼ばれる花火(まるいやつ)はふつうは三重芯(輪が3重になっている)のが主流であるが、大曲では“不可能”とされていた四重芯を成功させ、審査員と観客を驚かせた。
全国で見る花火の最新作が、まずは大曲で披露されるといって過言ではない。大曲での成功が、日本の花火の成功につながる。
それはスゴイ大会である。しかし、そんなことはほんの数年前まで知る由もなかった。いや、むしろずっと知らなかったかもしれない。
大曲との出会いは、至極単純なことだ。時刻表の臨時列車らんに「大曲花火大会臨時列車」とあったので、たまたま東北にいた私たちは、ついでに見ていこうということにしたのだ。臨時列車が大曲発、野辺地行きというわけ分からないものだったが、夜行なので、宿がわりにしようと考えた。
1996年8月、初めて大曲へやってきた。秋田から特急「秋田リレー」に乗って到着。工事中の駅舎から、とぼとぼ雄物川河川敷へ歩いたが、その観客数に圧倒された。花火のスタートは夕方5時と早いのも特徴である。暗くないと花火があがらないというのは、間違っている。なんと、「昼花火」というのがある。全国の花火大会で昼花火があるのは、大曲除いて無二である。
やがてマックラになると、花火師の名前と花火名を告げるアナウンスとともに、次々と披露される。割り物良く見るものを1発打ち上げ、空に大きな輪が舞う。ドンという音が身体中に響き気持ちよい。そしてもう一つ何かやったあと、3番目に「創作花火」という、花火師が決めたテーマに基づいて、ときには音楽に乗せて打ち上げる。これがまた格別なのである。言葉で言い表せないが、非常に面白い。
アナウンスは余計なことは一切言わない。だから、地元・秋田FMの中継を聞きながら見ると面白い。ほとんど花火を無視してトークしているが、たまに「ああ、すごいですねえ」「緑の輪が、広がりました! きれいですねえ」と、見たまま話すから、なかなか面白い。同じものを見ているというのが心地よい。
これは毒になってしまい、1998年、99年と見にでかけてしまった。70年以上も歴史も持つ大会だけに、レベル・規模・楽しさは変わらない。全然寂れず、よい。
ところで大曲駅であるが、ここは秋田新幹線の開業によって、立派な駅舎となった。新幹線とはすごい物だと改めて思わされる。だが、この花火の夜だけは別だ。なにせ、うん万人が、この駅に殺到するのである。臨時列車は出るが、乗るのは大変だ。どこの花火大会でもそうらしい。96年に初めて見に行ったとき、「野辺地行き」の臨時列車はなんと583系寝台電車がやってきて、しかも自由席が1両だけというものだった。同駅の終電に等しく、乗る人自体は他の列車よりは少なかったと思うが、それでも、あのボックス車両に詰め込まれるのはたまらない。並んで待っているのに横入りするような秩序を乱すやつが出てくると、ただでさえ遅れている列車(1時間は遅れた)に苛立つ待ち客が発狂し、暴徒化する光景は見るに耐えない。
だから、98、99年は臨時「こまち」の指定席をあらかじめ手配して、なるべく回避するよう努力している。指定席さえあれば、何ら問題はなく、スムーズに乗車することができる。
大曲駅、そんなんだから、花火大会のときの光景しか思い浮かばない。おそらく、ふだんは平穏な、静かな街、駅なのだろうと思う。察するに。
■独断と偏見で選んだ、大曲駅の名所&名物。
1)大曲駅
大曲駅は、奥羽本線・田沢湖線ともにスイッチバック――というより、進行方向が変わる。秋田から東京に行く「こまち」に乗ると、席が進行方向逆になっているのも面白い。新幹線も例外ではないのです。
2)雄物(おもの)川
おものがわ。1級河川です。河川敷で毎年8月の第4土曜日に「全国花火競技大会」が開催されます。なお、雨天の場合は、翌日延期となり、水曜日に実施した例もあります。開催は当日午前8時に決定されるので、事前に確認することをお薦めします。
3)稲庭うどん(食べもの) 瞬く間に全国区になった「うどん」。さっとゆでるが、その時間を誤ると全然おいしくなくなるのです。秋田みやげにいかが。なお、大曲市在住のある人は「あれは輸出用」と言ってますが、真相はいかに。
(2002年1月追記)
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