下関駅に降り立ったのは午前4時、京都始発の寝台特急「あかつき」からであった。「あかつき」にはレガートシートという座席車(指定席)が付いている。シートは大きく、リクライニングもするので、ぐっすり眠れる…はずだったが、(1)寝過ごしてはいけないという緊張、(2)夜食「八ツ橋」による空腹――から眠ることはできなかった。車掌が起こしてくれるサービスや車内販売があれば問題なかったのに。
まだ空は暗い。冷たい風が当たると頬が痛む。ガタガタ震えながらも、ホームで行われている機関車の交換作業を見届けた。関門トンネルでは専用の機関車と交換するのである。
コンコースへ降りた。「あかつき」から降りた乗客は皆無であった。駅には人影がない。新聞がキヨスクの前に置かれている。早朝の駅の雰囲気が漂う。
このとき私は「九州ワイド周遊券」を持っていた。九州旅行の途中下車である。ある野望を持って、下関駅を降り立った。それは“歩いて九州に上陸する”ということ。関門海峡を渡る方法はいろいろあるが、あえて鉄道を使わず、徒歩を選んだ。徒歩? どうやって? 実は、関門海底トンネルには歩道が併設してある(歩道と言わず「人道」というのはどうしてだろう)。そこを渡ってやろうというのだ。
下関駅の駅員さんに方向を聞き、出発。暗い道、車も通らず、ただ寒い風が吹いている。関門橋をくぐって、さらに先に入り口がある。ちょうど関門橋をバックに日の出を迎えた。人道入り口に着いたころには、すっかり明るくなっていた。青空が心地よい。
 関門国道トンネルの人道=1998年3月/ETN |
人道は、無料で通行できる。管理はJH(日本道路公団)で、自転車は20円払わなくてはいけないが、自己申告だから黙っていても分からないかも……と思ったら、きちんと監視カメラが。たった20円なのに。
エレベーターで地下へ降りる。直線に長く伸びるトンネルをひたすら歩く。ちょうど半分のところで、山口県と福岡県の県境があって、きちんと線が引いてあるのは面白い。ポンと飛び越えて九州上陸っと。
福岡県側の出口に着いた。地上に出たときには、太陽はだいぶ高く上がっていた。お腹がグーッと鳴った。出口の近くに和布刈(めかり)公園があって、その中に高速自動車道・関門橋の「めかりP・A」があるらしいので、そこへ行ってみた。食堂が開いていたので、早速入った。「すぐ出来るものを」と思い、ウドンを注文。やってきたウドンは旨かったが、今度は眠気が来た。ウツラウツラしながらウドンをすする。食べ終わってみれば、入店から1時間経っていた。1杯のウドンを食べるのに1時間もかけてしまったようである。
|