いま、最も揺れている駅である。もしかしたら、消えてなくなってしまうかもしれない…。世に決別はつきものとはいえ、また懐古主義者ではないが、残せるものを消すということは、効率化・合理化に反してでも必要なことだってあるのだ、ということを改めて思い起こさせる出来事だろう。
戸河内駅は、JR可部線の終着駅・三段峡駅の1つ手前の駅である。中国自動車道が通り、交通の便はそれほど悪くはない。しかし、中国道は中国地方中央部を東西に貫く幹線で、県都・広島市へのアクセスはあまりよくはない。
そんな地域から鉄道が消えるかもしれない――JR西日本が、そうした考えを明らかにしたのは1998年4月のことだった。
可部線は、広島市の横川と三段峡を結ぶ60.2kmの路線だ。うち、可部―三段峡間は非電化区間で、運転本数も減る。事実上の運転境界となっている可部駅で、JRは路線を打ち切る…すなわち北部区間を切り捨てようと考えている。
「利用者が少ないから、廃止する」といのは、鉄道会社の、廃止のときに使う論理である。では、本当に少ないのか? 実際に乗ってみると――なるほど、納得、1日数本しかない列車にもかかわらず、乗客は、明らかに゛廃止前に乗っておこう"というマニアを除く、一般利用者は皆無に近かった。
『輸送密度を800人にすること。』
これが、JR西日本が示した条件である。現在は約400人だから、倍に増やさなければいけない。
しかし、これまでも様々な手で利用促進を図ってきたのだろう、いまさら鉄道に客を戻すのは、かなり至難の業ともいえるかもしれない。
戸河内駅。
名勝・三段峡のある戸河内町の中心部である。駅前には役場がある。
役場のロビーには、町民が書いた寄せ書きがあり、その上には「がんばれ可部線」とある。
鉄道が消えるって、どういうこと?
戸河内駅は業務委託駅で、列車が来る時間に、委託のおばさんがやってくる。
おばさんは、言った。
「きっと、廃止されるだろうね。私は、この駅で30年仕事してきたけど…、高校生の顔色見るとねえ、この子は大人しい、この子は…と性格が分かるものだ。こうして、窓口で学生さんを捕まえて話すんだけどねえ――旅している人に、悪い人はいないよ」
――また来ますね。きっと。
「待ってるよ」
約束を、果たせるかどうかは、分からない。
鉄道が消える町。北海道の紋別、群馬の横川、そして、広島の戸河内? やがて新幹線ができると東北地方からも鉄道が消えるかもしれない。
レールが持つ意味というのは、無くなってみないと、分からないのだろうか。
列車の中で、地元の人が、つぶやいていた。
「あんな道、バス、走れんのかなあ」
<補遺>
JR西日本は2003年11月限りでJR可部線の可部〜三段峡間を廃止することを決め、国に届け出をしました。広島県や沿線自治体は、第3セクター方式での運営など鉄道存続の方法を模索してきましたが、代替バス転換の道を選びました。残念な結果ですが、戸河内駅を含む可部線非電化区間は、廃止されることが確定しました。(編集部)
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