僕の通った高校の最寄り駅は京成大久保駅である。
学校の始業ベルに間に合うには、歩いて15分強の距離を5分弱で行かなくてはならない。遅刻するかしないかは電車がダイヤに正確かどうかで決まる…
僕は3年間ほどそんな高校生活を送った。もっとも最初の1年間は結構まじめだったので、朝のジョギング、いやランニングをしたのは実質2年間だ。
「チコデン」(遅刻ぎりぎりの電車の意。僕たちはそう呼んでいた)には2種類ある。上りのチコデンと下りのチコデン(共にだいたい同じ時間に駅に着く)である。ダイヤは毎年微妙に変わるので、はっきりとは言えないが、上りのチコデンの方がより危険度(=遅刻度)が高いと思う。
たった10分早く起きればチコデンなんて乗らないですむ。朝から走らずにすむ。しかし、チコデン愛好者は減らない。
チコデン愛好者には連帯感が生まれる。互いに挨拶するようになる。すると一緒に学校まで走るようになることもある。
走らないですんだこともあった。途中で優しい先生が車で僕たちを拾ってくれたのである。僕はその先生と彼の赤い車を末永く忘れないだろう。
走らないですむ方法もある。自転車を用意するのだ。ある人はその方法を用い、穏やかな高校生活を送った。
走らずにあきらめる人もいる。彼氏彼女らにとってはチコデン・イコール・チコク、である。
大久保駅に午前8時15分に電車が到着する。学校の始業は8時20分。この5分間にはさまざまなドラマが存在する。
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