「三軒茶屋」という空間に、ひときわ憧れていた。
渋谷から東急東横線で10分ほどのところにある三軒茶屋。字のごとく、茶店が三軒立ち並んでいたそうである。東京の流行拠点・渋谷の近くにありながら、古き良き時代を感じさせるスポット。と同時に、渋谷に近いだけあって新しい空気も感じられる、今と昔が入り交じった空間。
その時間の交差点のような空間を訪れてみたいとかねがね思っていた。
はじめて三軒茶屋を知ったのは、今から10年も前のことである。
ある雑誌のミニ特集で三軒茶屋がとりあげられていた。
行ってビックリ、見て興奮 三軒茶屋は先取りプレイタウン
これが、その雑誌の見出しである。
”玉電”と呼ばれる電車で着いた先には、昔ながらの佇まいを守りながらも現代が交錯する、独特の雰囲気を描いていた。
「渋谷に飽きたら三軒茶屋」
そういうぐらい、魅力溢れる町だと特集は語る。
この記事が、私の想像をふくらませた。イメージだけが先行した。
そして10年目にして、ついに憧れの地を訪れたのだ。
思った通りのところだった。
そこは「いま」と「むかし」が交錯する町であった。
ただ、昔といっても、古い建物があるとかいうのではなくて、その町にもともと根付いている歴史的な雰囲気が漂っているのだ。
三軒茶屋という名にあるように、茶店という社交場の雰囲気が残っている。
世田谷線の「青がえる」車両はなくなって新しくなっていた。駅も建て替えられ、隣にはキャロットタワーなるにんじん色のビルが建っている。
街に新しいものができていくのは、新陳代謝で、すなわち街が元気な証拠。
芯がしっかりしているから、街が消えてなくなることはないんである。
いいところは受け継がれていくんだな。
特集から10年経ち、その記事の内容は役に立たない。駅も街も看板も、みんな変わってしまっている。
でも、ボクは三軒茶屋を訪れて、それがそこだと分かった。
そんな街は、数少ない。
元気な街にいると、自分も元気になってくる。
今度また来よう。そして、元気になって帰ろう、三軒茶屋。
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