ギリシャ・バスジャック事件

 ギリシャ南部のペロポネソス半島のエピダウロス付近で11月4日午前10時半(日本時間午後5時半)ごろ、日本人観光客32人を乗せてアテネへ向かっていたバスが、ライフルを持ったギリシャ人の男に乗っ取られた。バスは、現地警察のパトカーに追跡されながら走行を続けていたが、事件発生から約8時間半後の午後7時(同5日午前2時)前、男がアテネ市内で投降し、乗客も全員無事に解放された。  
経過――親類射殺後の犯行

 現地からの報道などによると、男は48歳の自動車工、クリストス・ケンディラス容疑者で、4日午前に77歳の義理の母親と知人を射殺した後、自分の車に放火した上、通りかかったバスをハイジャックした。その後、説得に当たろうとバスに近づいた警官にも発砲して、軽傷を負わせている。

 男は、車中から携帯電話で地元のテレビ局に連絡。「警察がバスの追跡をやめなければ、人質を一人ずつ射殺する」と警告していた。一方で、自分の知人であるニュースキャスターに会えるなら投降してもよいと話し、この司会者が電話でケンディラス容疑者の説得に当たっていた。

 バスは、エピダウロスとアテネの間を何度も方向も変えながら走りつづけていたが、ケンディラス容疑者がかなり興奮状態であったため、警察はバスとの距離を取りながら、刺激をしないように追跡を続行。特殊部隊のほかに、説得に当たるための心理学者なども待機させていた。

 やがて、ケンディラス容疑者は、キャスターや警察の説得に応じ、バスをアテネ市内に向かわせ、このキャスターの勤めるテレビ局の前で投降。人質となっていたバスの乗客、乗員すべてが解放された。同容疑者は事件を起こした動機について、妻や義理の祖母などをめぐる家庭内のトラブルを挙げているという。

 バスは、日本の阪急交通社が現地の代理店を通じて手配した観光バスで、日本人乗客32人に加え、ギリシャ人の運転手と添乗員、日本人の添乗員の計35人が乗車していた。乗客は同社が首都圏を中心に募集した観光ツアーの団体客で、ほとんどが年配。この日は、アテネの南西約70キロのペロポネソス半島の観光地エピダウロスで遺跡めぐりをしていた。

 乗客らは解放された後、やや疲れた様子でバスを降り、用意された車でアテネ市内のホテルに向かった。

 ギリシャでは今年の夏にも、ペロポネソス半島近くでスイス人一家が乗ったヨットがハイジャックされる事件があったばかりで、同様の事件がこの数年多発している。 【CNN】

犯人は自殺

 バスジャックは家族関係のもつれが原因で、計画性のない犯行だったとみられる。犯人のクリストス・ケンディラス容疑者(48)は5日朝、指紋採取中に警察署8階の窓ガラスを割って飛び降り自殺した。 地元警察などによると、逮捕され自殺したギリシャ人のケンディラス容疑者はペロポネソス半島ガラダスに住む自動車修理工で、4日朝、妻との仲を疑っていた隣人の男性(44)と妻の母親(77)をライフル銃で射殺。その後、車に乗って付近の高速道路に入り、ガソリンとライフルを持って日本人観光客のバスに乗り込んだ。バスを乗っ取った後、車外へ向け十数発発砲し、追尾する警察官1人に軽傷を負わせたが、バス乗客らに危害を加えることはなかったという。

 この間、同容疑者は携帯電話で地元テレビ局の人気司会者と連絡を取り、その説得に応じ、最後はアテネ市内のテレビ局前で投降した。乗客の話によると、同容疑者は、乗客らに英語で「ソーリー(すまない)」と言って車外に出て、逮捕された。 【毎日新聞】

首相は謝意表明

 森喜朗首相は事件解決後、ギリシャ政府に謝意を表明。一方、ギリシャのクリソホイディス公共秩序相は、解放された日本人観光客らを訪ね、「とても残念な事件だった」と述べ、遺憾の意を伝えた。

高齢者の海外ツアー増加、事件や事故に遭遇するケースも

 ギリシャでバスジャックに巻き込まれた日本人観光客は、大半が60歳以上の高齢者。旅行代理店も定年退職後の高齢者層をターゲットに、10日間程度の日程でさまざまな地域の海外ツアーを販売しており、夫婦や友人同士で行く人が増加。それに伴い海外での事件、事故に巻き込まれる例が増えている。
 今年6月、グルジアで起きたケーブルカー脱線事故では、日本人女性観光客8人が重軽傷を負った。福岡市の旅行代理店が募集した旧ソ連地域の国々を回る9日間のツアーで、1人を除きいずれも60歳代から70歳代だった。  【時事通信】

ギリシャは注意喚起

 ギリシャでは、今年6月に英国大使館武官が自家用車で出勤中にアテネ市内で射殺される事件が起き、テロ組織から犯行声明が出された。このほか、外国人所有車が放火されるなど、外国人を狙った事件が増加しているとして、外務省が7月に旅行者に対し、注意を呼び掛けていた。【時事通信】 

帰国希望者は32人中2人

 東京都港区の阪急交通社では、高田靖彦社長が5日午前、記者会見し「精神的、肉体的にも苦痛を味わってしまった参加者や家族の皆さんに申し訳ないことをした」と語った。同社によると、ツアー客のうち帰国希望は2人、日程変更しないでツアー続行が7人、日程を2日延ばしてツアーを続行が21人、未定が2人という。 【毎日】


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